さっき表で、大声で叫んで子供達を呼んでい
た小太りの中年男性が正面で叫んだ。
「始まるよ!静かにしよう!」
1人の子が皆に叫ぶと、今まで騒がしかった
クラブハウス内が急に静かになった。
「それじゃ、説明を始めます!」
正面に立っている小太りの中年男性が、子供
達に説明を始めた。
「みなさん、こんにちは。今日から横浜市民
ヨットハーバーでは、ジュニアヨット教室を
さっき表で、大声で叫んで子供達を呼んでい
た小太りの中年男性が正面で叫んだ。
「始まるよ!静かにしよう!」
1人の子が皆に叫ぶと、今まで騒がしかった
クラブハウス内が急に静かになった。
「それじゃ、説明を始めます!」
正面に立っている小太りの中年男性が、子供
達に説明を始めた。
「みなさん、こんにちは。今日から横浜市民
ヨットハーバーでは、ジュニアヨット教室を
始めることになりました」
そこで、男性も一息つくと
「今まで、横浜市民ヨットハーバーでは、大
人の人たちのためのヨット教室はあったので
すが、今年から子供の皆さんにも、ヨット教
室を始めることになりました」
男性は言った。
「私は、片桐一郎と言います」
男性は、まずは自分のことを、皆に自己紹介
したのだった。
「後ろに立っているのが、土居先生、中山先
生、松田先生・・」
自分の自己紹介を終えると、少年少女たちの
周りに立っている大人たちを紹介した。
「彼らが、これから皆さんにヨットの乗り方
を教えていくことになります。これから隔週
で日曜、ヨット教室に来られるようになると
思いますが、よろしくお願いいたします」
片桐一郎は、子供達に伝えた。
「よろしくお願いします」
「いま自己紹介では、先生と紹介させて頂き
ましたが、皆さん、私も含めて、どの先生も
別に普段から学校の先生をしているわけでは
ありません」
片桐先生は言った。
「皆さん、普段は家で普通にお父さん、お母
さんをされている方達ばかりです」
そう片桐先生が説明し終わると、少年少女た
ちの中央にいた少年を指差した。
「松田優平くん」
中央にいた少年が、片桐先生に返事した。
先ほど、少年少女たちがお喋りで騒がしかっ
た時に、静かにしようと進言して、皆を静か
にさせた少年であった。
「松田くんのお父さんが、松田先生です」
片桐一郎は、子供達に説明した。
「松田先生も、松田くんのお父さんであり、
普段は普通に会社で働いています」
「松田です」
松田先生が挨拶した。
「皆さん、プロの学校の先生ではありません
ので、学校の先生のように、上手にヨットを
教えることはできないかもしれませんし、ヨ
ット教室、教室としては正確な対応ができな
いこともあるかもしれませんが、そこのとこ
ろは大目に見ていただければ幸いです」
片桐一郎は、説明の合間に一息ついた。
「まず、ヨットですが、海から落ちてしまう
こともあるかもしれません」
片桐先生は、生徒達に行った。
「その時に救助の船が来るまで、海に浮かん
でいられるように、こういったライフジャケ
ットという救命具をヨットに乗る時は、必ず
着用してください」
片桐先生は、オレンジ色の服の内側に発泡ス
チロールの入ったベストを、皆の前に高く上
げて説明した。
「これから、皆さんにも1個ずつ配りますの
で、必ず着てください!」
生徒達に、ライジャケが配られた。
周りにいた大人、先生たちがダンボール箱の
中に入っているライフジャケットを1個ずつ
子供達に手渡して周っていた。
「こうやって着るんだよ」
手渡しながら、着用の仕方がわからない子供
達には、一緒に着るのを手伝いながら、ライ
フジャケットの着方を説明していた。
「皆さん、全員着用できたかな!?」
片桐一郎が、生徒達に聞いた。
「はーい!」
「それでは、ヨットのしまってある艇庫に移
動して、ヨットの乗り方について説明します
ので、先生の後について、艇庫まで移動して
ください」
片桐一郎は、生徒たちを艇庫まで引率した。
洋ちゃんと健ちゃんも、片桐先生の後につい
て、クラブハウス裏側の艇庫へと移動した。
「皆さんが乗るヨットは、ここの艇庫の中に
置いてあります」
片桐先生は、プレハブの小さな建物の入り口
の扉を開いた。
扉を開いた内側に、小さい箱型のヨットの船
体が折り重なって置かれていた。
「これがヨットの船体です。このヨットはO
P、オプティミストディンギーというヨット
の種類になります」
片桐先生が、生徒たちに説明した。
洋ちゃんは、さっき健ちゃんと一緒に、沖合
から走ってきた大きなヨットを見ていたので
今、自分たちの前の艇庫に入っているヨット
がすごく小さく感じてしまっていた。
「このヨットは、OPといってヨットのオリ
ンピック競技にも使われているヨットです」
片桐先生が言った。
「オリンピック競技にもなっているヨットな
ので、皆さんも、このヨットを乗りこなせる
ようになれば、オリンピックにも出場できる
かもしれませんよ」
片桐先生は、オリンピックにも出場できるか
もしれないヨットと紹介した。
そう聞けば、皆がすごいと思ってやる気が出
るかと思ったのだが、生徒達の反応はそれほ
どでもなかった。
「では、これから、このヨットを海上に出し
て、実際に乗ってみましょうか」
片桐先生は、一番上に重なっているヨットの
船体を持ち上げてみせた。
「1人では、サイズも大きいですし、重たい
から持てませんよ。2人1組で、ヨットの前
と後ろで挟んで持ち上げて移動しましょう」
先生たちの指示で、子供達は2人1組になっ
て、積み重なっているヨットを1艇ずつ持ち
艇庫から表の広い敷地に出した。
「けっこう軽い!」
「ぜんぜん簡単に持ち上がる」
OPは、木製の合板でできているため、小さ
い子でも2人で船の前後で挟みこんで持ち上
げれば、女の子でも割と簡単に持ち上げて移
動できた。
「けっこう楽勝で持てるよ」
「前側を持ってよ」
洋ちゃんも、健ちゃんとペアになって、自分
たちの乗るヨットを持ち上げて、艇庫の外の
広い敷地のところに持ち出した。
皆が、それぞれ艇庫の中に折り重なっていた
ヨットを全て出し終わった。
「あと、この白いヨットも出すんですか?」
少年たちが、艇庫の中に1艇だけまだ残って
いた三角形のヨットを指差して、片桐先生に
聞いた。
「それも表に出すよ」
片桐先生に言われて、白い船体の前後に1人
ずつ別れて挟み、持ち上げようとした。
「重たい!」
2人は、白いヨットも先に持ち出したOPと
同じように持ち上げようとして、その重さに
閉口していた。
「これは、2人だけじゃ無理だな」
片桐先生が手伝いにやって来てくれた。
「先生が前を持つから2人で後ろを持って」
片桐先生が、先頭を1人、子供達が後ろを2
人で持って、ようやく持ち上がり、艇庫の外
へと持ち出した。
白いヨットを持ち出した2人は、小学校高学
年で少し大きい子たちだった。
「君たちは、身体つきも他の子よりも大きい
し、この白いヨットに乗ろうか」
片桐先生が、2人に言った。
「ちなみに、この白いヨットのことをミニホ
ッパーといいます」
「ミニホッパー?」
「そう、あっちの四角いヨットの名前はOP
こっちの白いのはミニホッパーです」
片桐先生が、2人に教えた。
生徒たち皆が協力して、艇庫の中にあったヨ
ットは全て、横浜市民ヨットハーバーの表、
広くなった敷地に1艇ずつ表向きに並べられ
ました。
「これで、ヨットは全て表に並びました」
片桐先生は、生徒たちに告げた。
「でも、ヨットなのにまだマスト、セイルが
船には付いていません」
片桐先生は、敷地に並べられたヨットを指差
しながら、皆に説明した。
「まず、マストを立てて、そこにセイルを広
げましょう」
生徒たちと共に、もう一度、艇庫に戻った。
「はい。艇庫の中、天井付近にいっぱいクル
クルと巻かれた状態で仕舞われているものが
ありますね」
片桐先生は、その中の1本を手で取り出すと
生徒たちに見せた。
「これがセイルとマストです」
1本を高く上に持ち上げてみせながら、先生
は生徒たちに言った。
「また2人1組で1個持って、自分たちのヨ
ットのところに持って行きましょう」
生徒たちは、先生に言われた通り、2人1組
でセイルとマストを艇庫から持ち出した。
「こっちは軽いね」
「ヨットの船体と違って、大きい子たちなら
ば、2人じゃなくても1人でも持って行ける
かもしれないですね」
小学校高学年の子たちは、1人でマストとセ
イルを表に持ち出していた。
「小さい子たちは、ラダーとセンターボード
を持って行きましょう」
大きい子たちがセイルとマストを1人で持っ
て行ってしまったので、片桐先生は、手の空
いた小さい子たちには、四角い木製の板の形
をしたラダーとセンターボードを手渡した。
小さい子たちは、それらを表に置いてある船
体のところへ持って行った。
「1つの船体に対して、1つのセイルとマス
トのセット、それにラダー1つ、センターボ
ード1つで1セットになります!」
先生たちの指示で、子供達は表に並べられて
いるヨットの備品を1艇ずつ揃えていた。
「ぜんぶ揃った船から、今持ってきたものを
ヨットに取り付けて組み立てていきますよ」
片桐先生は、子供達に指示していた。
「これ、こっち側?」
「この穴に入れれば良いのかな」
「重くて、マストが船体の穴に入らないよ」
先生たちは、取り付け方のわからない子供達
の組み立てを手伝っていた。
「センターボードは、ヨットの船体の真ん中
の穴に入れます」
片桐先生たちは、生徒たちの周りを周って、
取り付け方を説明していた。
「センターボードのセンターっていうのは英
語で真ん中という意味です」
先生達が必死に説明していた。
「ヨットの、船体の真ん中に取り付けるボー
ド、板だからセンターボードです」
まだ小学校では、英語を習っていなかったが
先生たちは英語の意味を教えて、センターボ
ードのことを説明していた。
「ラダーは、ヨットの、船体の後ろ側に付け
る板です」
「ラダーの先っぽに棒が付いていますが、こ
の棒、ティラーを左に押したり、右に引いた
りして、ヨットを左右に動かします」
ずっと大声で説明していたので、片桐先生の
声はだんだんかすれてきていた。
「マストは、船体の前の方にある穴に差し込
みます。穴に差し込んでマストが立ったら、
ロープ、シートでぐるぐる巻きにしてあるロ
ープを解いて、マストに沿って付いていた金
属の棒を船の前から後ろへ垂直に下ろす」
先生は、マストの説明をしていた。
「これがブームというセイルを右に出したり
左に出したりするものです」
先生は、マストを立てながら、子供達へ説明
していた。
「このブームとラダーに付いているティラー
を左にしたり、右にしたり、入れ替えること
で、ヨットは左、右へと方向転換します」
「先生!」
女の子が手を上げた。
センターボードを船体中央の穴に差し込もう
としていた女の子が呼んだ。
「はい、花ちゃん。なんでしょうか?」
「先生、センターボードがうまく入らない」
「ちゃんと入っているじゃないの」
先生は、女の子がちゃんと船体中央の穴に差
し込めているのを確認して言った。
「こんなものでいいの?」
「大丈夫ですよ」
「なんか、もっと奥まで入るのかと思った」
女の子、花ちゃんは、センターボードの下の
方だけが船に刺さっていて、上の方のほとん
どが船体から上部に飛び出してしまっている
のを気にしていた。
「ああ、もちろん海に船を下ろしたら、セン
ターボードも一番下まで突き刺しますよ」
先生は、花ちゃんの差し込んだセンターボー
ドに軽く手を添えながら言った。
「今は、ヨットが陸上に置かれているから、
一番奥まで入らないだけです」
「センターボードは、一番奥まで差し込みた
くなりますが、船体の下に地面があるから、
一番奥まで突っ込めないじゃないですか」
センターボードの先を船体下にある地面に当
てて見せながら、先生は説明した。
「あ、そうか」
「地面があるから、奥まで差せないんだ」
花ちゃんたちは、地面にセンターボードがぶ
つかっていることに気づいた。
「海に浮かべれば、奥まで入るのね」
「同じように、ラダーも一番下までは、地面
があって下ろせないから、今はこのシートを
引いて、ラダーは上に向かって跳ね上げてあ
ります」
先生が言った。
「じゃ、海に船を浮かべたら、センターボー
ドとラダーを海の中に突き刺すのですか」
「そうです!正解です」
片桐先生は、生徒たちに答えた。
「そういうことか」
「皆さん、自分のヨットのマストはちゃんと
立ちましたか!?」
片桐一郎は、ヨットの艤装をしている子供達
の周りを見回理ながら聞いた。
「皆、マストも無事に立てられて、センター
ボードやラダーも付けられたみたいですね」
全てのヨットのマストやセイル、艤装品が設
置し終わっているのを確認して、片桐先生は
答えた。
「これで、ヨットの準備は完了です」