ジュニアヨット教室物語・第31話

「洋ちゃんー!何をやっているの!?」

洋ちゃんのお母さんは、部屋の中に向かって

大声で叫んだ。

「健ちゃん待っているわよ」

洋ちゃんのお母さんは、家の中にいる洋ちゃ

んのことを呼んだ。

「ちょっと待ってよー」

洋ちゃんは、7階建てマンションの1階の部

屋だった。2階から上の部屋は、普通の細い

バルコニーがベランダ側に付いていた。

ジュニアヨット教室物語・第32話

1階の部屋だけは、ちょっとしたお庭と1台

分の車が置ける駐車スペースが付いていた。

「黒ちゃん」

健ちゃんは、洋ちゃんの家の駐車場に停まっ

ている車の下から顔を出している真っ黒のウ

サギに向かって、声をかけた。

ウサギの黒は、庭に置かれている青いプラス

チック製の野菜箱の中を寝ぐらにしていて、

鎖に繋がれており、よく車の下に潜り込んだ

りして過ごしていた。

ジュニアヨット教室物語・第33話

「ごめんごめん、お待たせ」

洋ちゃんが、バッグを抱えて、ベランダ側の

出入り口から出てくると、スニーカーを履い

て表に出た。

「黒ちゃんって、人に慣れていて、めちゃ可

愛いですよね」

「そうだね」

ウサギの黒は、お母さんが近所にいた友達が

引っ越すからともらってきたウサギだった。

「お散歩とか行くんですか?」

ジュニアヨット教室物語。第34話

「黒のお散歩?」

洋ちゃんは聞き返した。

「お散歩は、ウサギは行かないかな、ってか

お散歩は無理でしょう」

「そうなんですね」

健ちゃんは、黒の頭を撫でてあげながら、洋

ちゃんに答えた。

「行ってきます!」

「はい、気をつけて行ってらっしゃい」

お母さんは、2人に手を振った。

ジュニアヨット教室物語・第35話

お母さんは、自分の息子と健ちゃんが今日か

ら始まるヨット教室に出掛けるのを見送って

いた。

洋ちゃんの家は、横浜駅から徒歩20分ぐら

いの丘の上に建っているマンションだ。

丘の上に建っているため。横浜港が一望でき

る見晴らしの良い場所だった。

「良い天気だなー」

その洋ちゃんの家から歩いて5分ぐらいのと

ころに健ちゃんの家はあった。

ジュニアヨット教室物語・第36話

健ちゃんの家は、古い一戸建てで、その裏側

に画家であるお父さんが絵を描いているアト

リエがあった。

お父さんのアトリエで開かられている絵画教

室には、洋ちゃんも生徒として通っていた。

洋ちゃんと健ちゃんは、丘を下ると、横浜駅

へ向かって歩いていた。

「最近、何をしています?」

「俺、サッカー部やっていますよ」

洋ちゃんは答えた。

ジュニアヨット教室物語・第37話

「洋ちゃんは、スポーツとか得意ですね」

「ぜんぜん得意ではないよ。サッカー部もレ

ギュラーってわけじゃないし」

洋ちゃんは、健ちゃんに答えた。

「僕は、部活はぜんぜんしていないです。勉

強があるので、直行で帰宅しちゃってます」

「そうなんですね」

洋ちゃんと健ちゃんは、幼い頃はよく洋ちゃ

んのマンションすぐ裏側にある公園でブラン

コに乗ったりしていた。

ジュニアヨット教室物語・第38話

「俺さ、健ちゃんとよく遊んでいた住友のジ

ャングルジムが忘れられない思い出だな」

「ああ、ありましたね。無くなってしまいま

したけどね」

洋ちゃんのマンションすぐ隣に、昔は住友の

大きな社宅があった。

そこに社宅居住者用の広い庭があって、そこ

にあった遊戯施設で遊んだりしていた。

小学生の高学年になると、医者志望の健ちゃ

んは勉強一筋でインドア派になっていた。

ジュニアヨット教室物語・第39話

洋ちゃんの方は、相変わらずアウトドア派と

いうか公園などで遊んで過ごしてきた。

「俺も、絵を描くのは好きですよ」

洋ちゃんも、絵を描くのが好きで、健ちゃん

のお父さんがやっている絵画教室に通うぐら

いで、それほど運動が得意なタイプというわ

けではなかったのだが、勉強よりはアウトド

アで遊ぶ方が好きだったので、いつも外で遊

んでいた感じだった。

「洋ちゃんは、外で写生するのが良いかも」

ジュニアヨット教室物語・第40話

インドア派とアウトドア派なので、小学校高

学年になってくると、あまり一緒には過ごさ

なくなってきてしまっていた。

そして、小学校を卒業すると、近所の公立中

学校に進学した健ちゃんと、電車で通学する

私立の中学校に進学した洋ちゃんとでは、ほ

ぼ会わなくなってしまっていた。

「根岸線で良いですね」

「ですよね」

2人は、横浜駅から根岸線に乗った。

ジュニアヨット教室物語・第41話

2人がこれから通うヨット教室は、横浜の根

岸にあるヨットハーバーで開講される。

「根岸にヨットハーバーなんかあるって知っ

ていましたか?」

「ぜんぜん知らなかった」

「ですよね、そんなところにヨットハーバー

があるなんて初めて知りましたよ」

洋ちゃんは、健ちゃんに答えた。

「根岸駅で降りれば良いのですよね」

「たぶん、そう思います」

ジュニアヨット教室物語・第42話

「根岸にあったかどうかは覚えていなかった

んですけど、ずっと小さかった頃に、かすか

に叔父の乗るヨットに乗せてもらいに連れて

行ってもらったことがあります」

健ちゃんが言った。

「そうなんだ」

「実は、今回のヨット教室を始めるって言い

始めたのも、うちの叔父なんです」

「え、そうなの?」

洋ちゃんが、健ちゃんに聞いた。

ジュニアヨット教室物語・第43話

「だから、うちのお母さんが、僕にヨット教

室へ通えって勧めてきたんですよ」

健ちゃんが答えた。

「それで、健ちゃんのお母さんが、うちのお

母さんとも仲が良いから、俺のところにも声

がかかったってことなのか」

「みたいですよ」

2人は、根岸線の車内で話していた。

「次は根岸駅、根岸駅です」

電車は、根岸駅に到着した。

ジュニアヨット教室物語・第44話

「なんか駅から遠いね」

洋ちゃんは、根岸駅からヨットハーバーまで

の道を歩きながら、健ちゃんに言った。

「確かに、ちょっと駅から遠いな」

健ちゃんも同意した。

確かに、最寄駅が根岸駅のヨットハーバー、

横浜市民ヨットハーバーは、公共の交通機関

である電車を利用した場合の最寄り駅からマ

リーナまでの距離は少し遠かった。

特に、子供の足では結構歩く必要があった。

ジュニアヨット教室物語・第45話

根岸駅を降りて、大通りへ出てから、ひたす

ら真っ直ぐ歩いて、ようやく海が見える橋の

たもとまで辿り着くまでにも、割と距離があ

るのに、その橋を渡ってから左折して、海に

向かって突き当たるまでひたすら直進して行

く、その距離もかなりあった。

クルージングヨット教室物語に出てくる今井

隆は、東京から麻美子が運転する自分の車で

市民ハーバー近くのマリーナまで直行してい

るので、その辺のことは知らなかった。

ジュニアヨット教室物語・第46話

まだ中学生の洋ちゃんや健ちゃんたちは、車

の運転はできないので、ここまで電車で通う

しかなかった。

こう書くと、横浜マリーナ近くの横浜市民ヨ

ットハーバーは、公共交通機関の最寄り駅が

離れた辺鄙な場所に位置するマリーナと思え

てしまうが、実は電車ではなくバス、横浜市

営バスの停留所ならば、もっとマリーナの近

くで降ろしてもらえるのだった。

「バスで通えばよかったな」

ジュニアヨット教室物語・第47話

それは、八幡橋という停留所のことだ。

このバスの停留所名にもなっている八幡橋が

洋ちゃんや健ちゃんが根岸駅から大通りを海

が見える橋まで歩いてきた橋のことだった。

「バスがあるじゃん!」

「バスで来れば良かったな」

横浜駅発もしくは関内駅発の「磯子駅」「杉

田平和町」行きバスが、ここまで連れてきて

もらえるので、根岸駅から大通りを橋まで歩

いてこなくても良くなった。

ジュニアヨット教室物語・第48話

「来週からは、バスで来ようか」

「そうですね。絶対にそれが良いです」

八幡橋から横浜市民ヨットハーバーまでなら

ば、それほど距離も離れていない。

この橋の辺りに、よくクルージングヨット教

室物語の中で、麻美子たちラッコのメンバー

がクルージングに出かける際の食料品を購入

しに来る相鉄ローゼン、ニトリやヤマダ電機

のショッピングモールがあった。

「ニトリがあるじゃん」

ジュニアヨット教室物語・第49話

けっこう大きなショッピングモールで、ショ

ッピングモールの中を橋側から反対側の出入

り口に向かって、ウインドーショッピングで

もしながら歩けば、ほぼ横浜マリーナの目の

前まで辿り着けた。

横浜マリーナまで辿り着ければ、もう横浜市

ヨットハーバーは、すぐ目の前だった。

「お、天は我々を見放さなかったか」

「また、洋ちゃんは大袈裟なんだから」

健ちゃんは、洋ちゃんのことを笑った。

ジュニアヨット教室物語・第50話

「ようやく着いたね」

「本当だよ。まったく大冒険だったね」

駅からマリーナの前まで、ようやく辿り着い

た洋ちゃんたちは話していた。

「もう一生、ヨットハーバーまで着けないん

じゃないかと思ったよ」

健ちゃんは、洋ちゃんに苦笑していた。

「まあ、本当だよね」

健ちゃんは返事しながら、マリーナのゲート

をくぐって中へ入った。

ジュニアヨット教室物語・第51話

「プールがあるじゃん」

「本当だ!」

2人は、マリーナを入ってすぐのところに水

の入っていないプールがあるのを見つけた。

プールの周りには、マリーナをぐるっと囲む

感じでヤシの木が植わって、マリーナっぽく

なっていた。

「水が入っていないね」

洋ちゃんは、水が入っていないプールの中に

飛び降りながら、健ちゃんに言った。

ジュニアヨット教室物語・第52話

「きっと夏になったら、水が入って泳げるよ

うになるじゃないの」

プールの脇を歩いていた健ちゃんが、中にい

る洋ちゃんに向かって答えた。

「ヨットがいっぱいあるじゃん!」

プールから海の方を眺めると、大きなヨット

がたくさん浮かんでいるのが見えて、洋ちゃ

んは叫んだ。

「それは、ヨットハーバーですからね」

健ちゃんは笑った。

ジュニアヨット教室物語・第53話

「どのヨットに、うちらは乗るのかな?」

洋ちゃんは、プールの外に出て、海際まで走

って行くと、健ちゃんの方を振り返った。

「どのヨットに乗るんだろうね」

健ちゃんも海際まで歩いていくと、洋ちゃん

の横に立って、海を眺めていた。

「あっちの方にある薄汚れたヨットよりは、

こっちの方にある白い綺麗なヨットに乗りた

いかな」

健ちゃんが言った。

ジュニアヨット教室物語・第54話

「確かに、俺も、あっちの白い綺麗な方のヨ

ットに乗りたいな」

洋ちゃんも、健ちゃんに返事した。

2人は、ぜんぜん知らずに勝手な感想を述べ

ていたが、まさか今、自分たちが指差したあ

っちの方にある薄汚れたヨットが、これから

自分たちにヨットを教えてくれることになる

先生のヨットだとは思いもしなかった。

八郎丸は、マリーナ沖の海上で揺れていた。

「本当、どのヨットに俺らは乗るのかな」

ジュニアヨット教室物語・第55話

「あっちから1艇、こっちに向かって来るじ

ゃないですか。もしかしたら、あのヨットな

のかもしれないですね」

健ちゃんが言った。

「ヨット教室で使うから、こっちに移動して

いるのかもしれない」

「確かに、そうなのかもしれないな」

残念そうに、洋ちゃんが答えた。

こちらにやって来るヨットは、2人が乗りた

いと言っていた白い綺麗なヨットとは、ぜん

ジュニアヨット教室物語・第56話

ぜん別のヨットだった。

2人がお喋りをしていると、自分たちと同じ

ぐらいの少年少女が何人か集まってきた。

「彼らも、ヨット教室の生徒なのかな」

「そうかもしれないね」

洋ちゃんと健ちゃんは、同い年ぐらいの少年

少女が集まってきたのを見ながら、お喋りを

していた。

「あのヨットなのか」

洋ちゃんが残念そうだ。

ジュニアヨット教室物語・第57話

「いや、まだ、あのヨットって決まったわけ

じゃないよ」

健ちゃんが、洋ちゃんに言った。

「もっと綺麗なヨットがいいな」

「あれとか?」

「そうだね。あれぐらい新しいやつ」

ちょうど船体の横に「ラッコ」と書かれてい

るヨットが出港していくところだった。

「まだ新しそうなヨットだね」

2人の後ろで、大声を出してお喋りしている

ジュニアヨット教室物語・第58話

少年少女たちの人数も増えてきた。

彼らが、まだ同じヨット教室の生徒かもわか

らないし、知らない子供達なので、洋ちゃん

も、ちゃんも声をかけられずにいた。

「ヨット教室の生徒さんは、クラブハウス内

に集まってください!」

洋ちゃんが、健ちゃんと一緒にポンツーンの

辺りをブラブラしていると、少し小太りの中

年男性が建物の前に立って、大声で叫んでい

るのが聞こえた。

ジュニアヨット教室物語・第59話

「ヨット教室始まるみたいだね」

洋ちゃんと健ちゃんも、急いでクラブハウス

の中に入った。

ほかの洋ちゃん達の周りでお喋りしていた少

年少女たちも皆、クラブハウスの中に集まっ

てきた。彼らも、やはり同じヨット教室の生

徒らしかった。

「今日からヨット教室だね」

「私、ヨットなんて乗ったことないから不安

なんだけど・・」

ジュニアヨット教室物語・第60話

クラブハウスの中には、大勢の少年少女たち

がたくさん集まってきていた。

洋ちゃんや健ちゃんのように、お友達同士で

来ている子供達も多くいるらしく、皆のお喋

りでクラブハウスの中は騒がしかった。

「ちょっと皆さん、静かに!」

少年少女たちの周りに立っていた大人たちが

子供たちに注意していた。

「ちょっと静かに!これから乗るヨットの説

明しますから!」